神鳥の卵 第21話


あのクリスマス以降、ナナリーは毎日のようにゼロの居住区へとやってきた。一人できたら妙な噂をたてられかねないため、ロイドとセシルももちろん一緒だ。
花もほころぶ可愛らしい笑みを浮かべながら、ナナリーはスプーンを差し出した。

「お兄様、あーん」
「あー」

ぱくり。もぐもぐ。

「おいしいですか?お兄様。すこしやわらかすぎましたか?」

今日のルルーシュの夕食はナナリーが作ったものだった。もちろんルルーシュも知っている。だから聞かなくてもルルーシュの答えなど誰もが知っていた。

「ななりーおいし」

にこにこと満面の笑みでルルーシュは答えた。
かわいい。
それでなくても天使のように可愛い・・・いやいまは天使なのだが、とても可愛いルルーシュが、幸せそうな満面の笑みを浮かべているのだ。可愛いに決まっている。
そしてさすがというか、ナナリーの名前だけはちゃんと発音できるようになっていた。他は相変わらずなのに、流石シスコンだ。

「よかった。次はこっちを食べてください」

天国だ。この二人がいるここはまさにエデン。二人の天使の幸せな姿を、周りは幸せそうに眺めていた。二人が歩んできた人生を思えば、茶化したり邪魔を出来るものなどない。はずなのだが。

「ルルーシュ、こっちも食べてよ。僕が作ったっんだ!」

キッチンから、バタバタと元気よくスザクが飛び出してきた。
静かだと思ったら、キッチンにこもっていたらし。

「スザクさんが料理を?」
「うん、咲世子さんに教えてもらって。はいルルーシュ」

スプーンに山盛りのせた謎の物体。
いやそれは口に入らないだろう。若干引いたルルーシュに気づいたナナリーは、「駄目ですよスザクさん」と、スザクを止めた。

「お兄様のお口はとても小さいのですから、もっと少なくしてくださいね」
「あ、そうかゴメンルルーシュ」

二人きりの世界を堂々と破壊し、二人の中にちゃっかり入り込むこのスキル。羨ましいと思うが、こんな暴挙をルルーシュが許すのは スザクだけだ。「スザクのやつ邪魔よ」とカレンが小さく文句を言うが、邪魔だからどけろという気はない。先ほどの現実離れした幸せ空間ではなくなったが、この3人がそろって笑っている姿は、ここにいる誰もが望んだものだったから。すべてが終わってから、「この三人が笑いあえる世界になっていれば」と思わなかったものはいない。それが今叶っているのだ。

「あちっ」

スザクがスプーンをルルーシュの口に押し込んだ瞬間、ルルーシュは悲鳴を上げた。

「え?」
「スザクさん!お兄様、大丈夫ですか??」
「あちちっ」

スザクが冷ましていない熱々の料理をルルーシュの口に押し込んだのだ。ナナリーは慌ててルルーシュに水を飲ませた。熱くて痛かったのだろう、両目をギュッとつぶったルルーシュの両目から涙がこぼれた。
その瞬間、幸せ空間は崩壊する。

「セシルさん、ロイドさん!」

どうしましょうと泣きそうなナナリーが二人に助けを求め、のんびり晩酌をしていた二人はすぐにルルーシュの口の中を見た。

「陛下、あーん」

痛いからか、両手で自分の口を抑え、ルルーシュが首をふるふると横に振った。どうせ見たところで火傷は治らない。このぐらいなんでもないと我慢しようとしているが、幼い体は言うことを聞かない。
ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

「おにいさま、あーんしてください」

しかし、ナナリーが悲しげに言えば、ルルーシュの我慢など霧散する。
ナナリーが言えば素直に口を開けることなど、悪いがここにいる全員わかりきっていたから、ルル-シュが素直に診察されることは見なくてもわかった。

「はーい、スザク料理禁止ね」

カレンはニコニコと笑顔で、それでいて殺気も込めていった。

「ええ?酷いな。そんなに熱くないよ」
「湯気出てるじゃない」

できたてホヤホヤなのは見てわかる。
ナナリーは長い間視力に頼らない生活をしていたからか、スザクを信用ししすぎていたからか、この湯気に気付かなかったようだ。

「僕は食べれるよ」
「あんたが食べれたからなんだって言うのよ。ミルクを人肌程度に冷まして飲ませる意味考えたこと無いの?やけどするから熱いものは駄目なのよ」
「でももうミルクは卒業したんだし」
「同じなの!!いい?禁止だからね!咲世子さんもいいですね?」
「かしこまりました」

まさか冷まさずに与えると思わなかったのだろう。私にも責任がありますと、咲世子も意気消沈していた。

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